2012年5月号 22
私は公認翻訳者として、日本語の文書を英語に翻訳することが主な業務ですが、ごくたまに通訳のお仕事もします。(アルバータ州に住んでいると通訳をする機会自体が少ないのです。)以前、翻訳と通訳の違いについて他の翻訳者や通訳者の方たちとお話することがあり、翻訳者と通訳者の意識の違いが面白いと盛り上がったので、今回はその一部を紹介します。会話は再現されたものですが、「翻①」と「翻②」は翻訳者側、「通」は通訳側の発言です。
- 翻①: 通訳って頭の回転が速くなくちゃできないですよね。私は訳文を考えるのに時間かかって。
- 通: 頭の回転っていうのかな。思いついた訳をパパッと言ってるだけというか。その場で終わっちゃう方が楽なんですよ。翻訳って、じっくりと考えてきちんとした文章にしなきゃならないじゃないですか。その方が難しそうだと思います。通訳だと、その場で意味が通じればいい、というところです。文が途切れていても、フレーズだけで会話は成り立っちゃうことって多いんですよね。
- 翻①: そうですね。そういう考え方もあるんですね。翻訳だと文章が製品だという意識があるから、訳だけじゃなくて編集や校正をした後で「製品として」パッケージして、デスクトップパブリッシングもしたりしますよね。あとは顧客と一緒に編集したり。メールで意見交換したり、スカイプなんかもよく使ってますね。
- 通: そういうところが、私はあまり得意じゃないんですよね。メールで仕事の交渉なんかはしますけど、あまり好きじゃない。あと、通訳現場でいつも携帯やパソコン見ているわけにもいかないし。通訳だけできていればいいな、なんて思うんですけど、商売上そうもいかなくて翻訳もしてます。頼み込まれて仕方なくとか、あとは顧客が原稿を先にくれた時には翻訳してますね。それでも、原稿を読み上げて終わり、っていう時は編集もある程度できていればいいかという感じで。
- 翻②: 私はその反対で、人前で話すことが苦手だから翻訳だけできていればいいな、って思ってます。職場の環境は?私なんかは自宅オフィスで時々パジャマ着たまま仕事してたりもするんですよ。顧客との対応も電話やメールがほとんどだから、交通費や移動時間なんかもあまりないし。時々会議なんかはありますけどね。
- 通: 顧客先の会社や法廷に出向かなきゃならないときには、やっぱりちゃんとした服を着ないとNGなので、そこのあたりでは結構お金かかったりしますね。でも、仕事内容によっては、着るものの指定もバラバラです。スカートは履かないようにと言われたこともあるし、レインコートと長靴を支給されたこともあります。あと、移動に時間がかかったりもするので、交通費はもちろん、移動時間分の料金や日当なんかも支払ってもらいますよ。
- 翻②: 日当も?やっぱり翻訳とは結構違いますね。有名人と会ったりもできるんですよね?
- 通: たまにですけど。でも、テレビに出ているような通訳の人たちってそれなりのコネがある人たちだと思います。私の顧客は色々な企業の方たちが多いですね。あとは会議の通訳とか顧客の出張先についていくとか。
メルドラム由香理
yukarimeldrum.com
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2012年4月号 21
最近、翻訳者として仕事を始めるには何をしたらいいのか、ということについて色々なところでお話をする機会がありました。沢山の質問が出たのですが、今回はその中からいくつか選んでみました。
「資格は必要でしょうか?」
資格はあったほうがいいですが、なくてもやっていけることはいけます。なのですが、やっぱり資格があるのとないのとでは様々な面で違いが出てきます。私自身、翻訳者として仕事を始めた時点では公認翻訳者の資格はありませんでした。学歴はというと、アメリカの大学で英語教授法の勉強をして、そのあと英語・外国語教授法の修士課程を終えたというところでした。それが資格扱いになったかどうかは分からないのですが、フリーランス翻訳者として仕事ができていたということは確かです。仕事開始1年後、アルバータ翻訳者通訳者協会 (Association of Translators and Interpreters of Alberta) の試験を受け、アソシエートメンバーとして入会しました。そしてその3年後に、公認翻訳者の試験に受かりました。公認翻訳者になってからすぐ、協会HPを見た翻訳会社や個人のお客様からの仕事の問い合わせが倍増し、資格の威力に驚きました。
「仕事を探すにはどうするのですか?」
はじめのうちは自分で仕事を探す必要があります。突然フルタイムで翻訳者に転職しても、すぐ生活をしていけるだけの収入が得られるかどうかは微妙なので、やはりフリーランスとして始める方が多いです。最近はインターネットで翻訳者募集をしている翻訳会社やエージェンシーがほとんどですので、比較的簡単に仕事を探すことができますが、狭き門であることが多いので何十件に履歴書を送っても何の反応もないこともあるそうです。何百件も送る覚悟でいればなんとかなるでしょう。他には、ProZ.comやTranslatorsCafe.comなどのウェブサイトを利用したり、LinkedInなどのSNSで仕事を探すこともできます。このようなサイトは便利なのですが、一般的に単価の低い仕事ばかりなのが気になる部分です。ただ、単価の高い仕事を見つけるには「経験何年以上」という条件がついていることが多いので、経験をつむという意味では単価は低くても修行の場として見ればいいのでしょう。私もはじめの数年は、色々な翻訳会社に履歴書などを送り、トライアルと呼ばれる翻訳試験などを受けてから登録し、単価は低くても経験を積むため、と思い仕事をしていました。
「ビジネスとして始めるには、何をしたらいいのでしょうか?」
これは個人事業 (sole proprietor) という会社として翻訳をしていく場合の話です。地方自治体にもよりますが、たいていの場合はまず会社名の登録が必要です。そして、自宅をオフィスとして仕事をする場合は、市などの「development permit」などが必要になり、その上で「business license」も必要になります。そして、年収が30,000ドルを超える場合は、GST(消費税)を払うための番号 (business number) もとる必要があります。色々と面倒な手続きではありますが、個人として仕事をしていくよりも会社として登録している方がいい場合があります。これは、信憑性の問題なのでしょうか、business numberがない会社とは仕事をしないという顧客もいるからです。このほかにも、incorporated businessなどとして登録する方法もありますが、手続きはもっと複雑になります。
メルドラム由香理
yukarimeldrum.com
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2012年3月号 20
先月は、一般の機械翻訳が日本語と英語の間では、まだまだ質があまり高くないというお話をしました。なのですが、最近ではある特定の分野では機械翻訳においても、質の高いものができています。たとえば、数十万円以上払えば、英語で書かれた特定の分野の文書(医学文献など)をある程度わかりやすいレベルの日本語に翻訳するソフトも手に入ります。特定の分野であると、専門用語の使い方や言い回しに特徴があり、データベースを作りやすいのだそうです。
ここでは、「crown」という単語ひとつを見てみます。この言葉は、文脈によっては色々な意味をもちますが、一般的にこの単語を聞いたら、あまり深く考えずに「王冠・かんむり」という和訳が思いつくでしょう。他にも、「頂上」や頭などの一番高い部分を指す言葉でもあります。それから、この言葉を動詞として使えば、「(人を)王にする」という意味や、「(人の頭に何かを)のせる」、「栄誉を与える」という意味にもなります。そして、アルバータ州で「Crown Prosecutor」と言ったら「国の検察官」のことで、かんむりを実際にかぶっている検察官のことではありません。このことばにはこれ以外にも、もっと色々な意味があります。(単語ひとつとっても色々な意味があり、それらの意味がじつは深いところでつながっているというようなことを勉強する分野が、言語学の語彙意味論です。翻訳をするにあたってとても意義ある学問だと思います。)
ところが、この単語が専門用語として現れると、意味がしぼられます。歯科ですと、名詞だと「歯冠」、動詞だと「歯冠をかぶせる」という意味のみ、そして産科では「(出産のときに)胎児の頭が出る」という動詞として使われます。この例を見ただけでも、専門用語や専門的に使われる表現などが、ある特定な意味に限られることが分かると思います。ですから、一般的な文書を翻訳するソフトをつくるよりも、専門分野の翻訳ソフトをプログラムするほうが楽なんだそうです。
このような翻訳ソフトが専門分野ひとつのみで頻繁に必要になるようなら、数十万円でも安いこともあるでしょう。ただ、私のようにどんな文書でも対応の翻訳の仕事をしていますと、次にどの分野の仕事が入ってくるかの見当はつかないので、私にはすべての翻訳を一本数十万円はするコンピュータソフトを使ってこなすことは、やっぱり無理なのです。
そこで最近は、コンピュータ利用翻訳またはCAT (Computer Assisted Translation)というものに人気が出てきました。これは翻訳者自身がした翻訳をデータベースとして記録し、それを次の翻訳に生かすというツールです。(なので、まずある程度データベースを作る必要がありますが。)そして、次に翻訳をしているときに、CATツールが過去のデータベースを検索して、今している翻訳に近い翻訳文を探し出してくれます。翻訳文を探す作業をコンピュータが受け持ち、その文を使うか使わないか、編集するかしないかなどは翻訳者の判断にかかってきます。これは、コンピュータがすばやい検索に向いているという点と翻訳者がいい翻訳をする判断ができるという点をあわせたツールです。結局は、翻訳者の判断なくしてまともな翻訳はできないということになります。
かくして、色々コンピュータが進歩してきたといっても、翻訳者の仕事はなくならなかったのです。めでたしめでたし。
メルドラム由香理
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2012年2月号 19
カナダ公認翻訳者のメルドラム由香理です。「翻訳なんて誰でもできるしコンピュータにだってできるじゃない」という考えもあるようです。誰にも、という点は過去にお話しましたので、今回はコンピュータを使った翻訳についてのお話です。
コンピュータを使った翻訳は機械翻訳とも呼ばれていて、だいたい1980年代の終わりころから「機械翻訳で費用削減!」のようにうたわれ、日本の電機メーカーはこぞって翻訳ソフトの開発を試みたのです。ただ、その当時のコンピュータ、覚えていますか?さらに、当時の翻訳原稿はほぼすべてが紙に印刷されていました。それを翻訳し、コンピュータのワープロを使って文書作成するだけでもテクノロジーを駆使していると思われていた時に、自動的な機械翻訳は少々先走りしすぎていたようです。
詳しく言いますと、顧客からは紙に印刷された状態で文書が持ち込まれます。スキャナーおよび文字認識ソフト(OCR=Optical Character Recognition)で高性能のものなどほとんど無かった時代ですので、まず原文をコンピュータに入力するのは人。そして、入力されたものを「翻訳」するのがコンピュータであったとしても訳の質が良くありません。そこで、大量の間違いを訂正するのもまた人。この人はもちろん日本語と外国語の両方が堪能でなければなりません。そして、フォーマットなどなど手のかかることもまた人の作業。そして更に、編集や校正など翻訳の最終確認。それを印刷して、やっと納品というステップを取らなければなりませんでした。
翻訳者に作業をさせれば、原文を入力する手間も省けます。プロの翻訳者であれば、訳間違いもそれほど出ないはずなので、作業のステップがぐんと減ります。以前にもお話しましたが、間違いだらけの翻訳を直す作業の方が、一から翻訳するよりも時間がかかるものなのです。こういうこともあり、コンピュータに翻訳の仕事が取られるということもありませんでした。
さて、時代は飛びまして、今ではインターネットが普及してオンライン翻訳が簡単にできるようになりました。それでも、そのような翻訳の質はそれほど高くはありません。たとえば、「This past year was such a strange year with all the earthquakes, nuclear plant disasters, revolutions, and stuff like that.」という英語を目にしたのでエキサイト翻訳を使って日本語にしてみたら、次のようになりました。
この過去年は、すべての地震、原子力発電所災害、革命およびそのような材料を備えたそのような奇妙な年でした。
言いたいことがわからないでもないけどちゃんとした日本語ではない、といった訳ですね。いちいち突っ込むと大変なので放っておきますが、質に問題があるのはわかると思います。外国語のウェブサイトを見てなんとなく意味をつかむだけでいいという場合にはこれで間に合いますから、ネット上で沢山の人が使っているのも納得ができます。ですが、このレベルの翻訳では商品にはなりません。
似ている言語同士であると翻訳ソフトの開発もそれほど問題はなく、ある程度のレベルは保てるそうですが、日本語と英語では距離がありすぎるのでしょうね。
メルドラム由香理
yukarimeldrum.com
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